六義園
日本が培ってきた情景の結晶
六義園の門をくぐった瞬間、空気が変わった。
東京の大動脈、山手線・駒込駅の喧騒とほど近い場所にありながら、この庭園が持つ静けさ、美しさは現実離れしている。
この庭園の美しさにはいくつか理由がある。
造園したのが時の最高権力者、柳沢吉保であり、当時最高の技術・資産が注ぎ込まれていること。
度重なる江戸の大火や、関東大震災、戦火の被害を免れてきたこと。
しかし最も特筆すべきは、そのコンセプトである。
古来の和歌に詠まれた日本の情景を、この庭園全体が表現しているのだ。庭園内の88箇所で、万葉集や古今集などに詠まれた日本の名勝を模している。
それを象徴するのが、園内で随一の景観スポット。藤代峠だ。
言葉で表わせないし、写真でも伝えきれないが、ここの眺めは本当に美しい。日本庭園とは、小宇宙なのだと思い知らされる。そして、この眺めには柳沢吉保の和歌への想いが凝縮されている。
そもそもが、万葉ゆかりの地、紀州・和歌浦の対岸にある景勝地「藤白坂」を参考に作庭されたこの峠。
上記写真の奥の岸辺は「出汐湊」といい、和歌浦に潮が満ちる様子を再現したものだ。紀州で藤白坂から和歌浦を見下ろせたように、この峠からは出汐湊を見下ろせる空間構築がなされている。
江戸のまつりごとの中心にあって、古来の和歌のこころや、日本各地の情景に想いを馳せるこの庭園。庭園文化研究家の田中昭三氏は、以下のように表現した。
訪れるたびに、これほど手の込んだ、しかも見る者に高度な教養を求める庭園とは、一体何だろうかと思わずにはいられない
安心してほしいが、和歌への造詣が深くなくても、この庭園の美しさはすばらしい。東京にいるなら、必ず訪れるべきだ。
しかしできることなら、景色ひとつひとつに秘められた和歌の心に、想像をめぐらせて楽しんでほしい。
日本が培ってきた情景の結晶が、ここにある。
MAP
- PLACE
- 六義園
- TEL
- 03-3941-2222
- ACCESS
- 東京都文京区本駒込6-16-3
- URL
- https://www.tokyo-park.or.jp/teien/contents/index031.html